最近では、終活の一環として自分のお墓を生きているうちに建てておくことが注目されています。生きているうちに自分のお墓を建てることを「生前墓」といい、昔はあまり縁起が良くないのではと敬遠されていましたが、「後の世代に負担をかけないように」などの理由で取り組む人が増えてきているようです。
この記事では、生前墓に対する人々の意識の変化や、中国ではむしろ縁起物と呼ばれていることを解説した上で、生前墓のメリットとデメリット、建て方をご案内します。そして最後には、生前にお墓をつくる場合の注意点をご紹介するため、生前墓を作るかどうかお迷いの方はぜひご一読ください。
生前墓は不吉?生きているうちにお墓をつくるときの流れと注意点
生前墓とは生きているうちにつくる自分のお墓

生前にお墓をつくることは、日本では長らく「不吉なこと」「縁起の悪いこと」とされてきましたが、中国ではむしろ長生きに通じる縁起物であるとされてきました。なぜそう言われているのかを解説したうえで、生きているうちにお墓をつくることのメリットやデメリットをご紹介します。
生前墓は「寿陵」と呼ばれる縁起物
中国では、生前墓は「寿陵」と呼ばれてきました。「寿」はめでたいこと、「陵」はお墓を指します。縁起が悪いどころか、長寿や子孫繁栄をもたらすとされ、秦の始皇帝をはじめとしてさまざまな権力者が生前からお墓を建てています。
日本にも寿陵の風習が伝わったとみられ、古くは聖徳太子をはじめ、多くの権力者が自分のお墓づくりに取り組みました。 この「寿陵」にまつわる話は、生前にお墓をつくっておきたいと考える人たちの励みになっています。「縁起が悪い」と反対する親族に対し、「中国ではむしろ縁起物だよ」と言えるためです。
生前墓のメリット
生前墓のメリットは、後の世代の負担を軽減できること、自分のお墓をその目で見ておけること、相続税対策になることです。 一般的な承継墓を建てると、100万円、200万円といったまとまった費用がかかります。
この費用を生前に引き受けておくことで、子どもの負担を減らせます。 また、どんなお墓にしたいか明確な希望がある人にとっては、生前墓の建立はかけがえのない経験です。石材店と打ち合わせを重ね、理想のお墓ができあがるのを、その目で見られます。
亡くなった後に完成するお墓では、自分で見ることができません。 そして、お墓や仏壇は相続税の対象にならない祭祀財産です。お墓を生前に建てておくことで、相続税を節税できる可能性があります。相続税がかかる可能性のある人には、おすすめの対策です。
生前墓のデメリット
生前墓のデメリットは、早くお墓を建てることで管理負担が発生することです。年間管理費を支払うほか、雑草を抜いたり墓石の手入れをしたりといった手間がかかります。かなり若く健康なうちにお墓を建ててしまうと、誰もそこに入っていないお墓をずっと維持管理しなければなりません。
また、後日もっとよいお墓が見つかり、後悔する可能性もあります。自宅からアクセス良好の場所に、建てたお墓よりも安価で雰囲気の良い霊園ができるかもしれません。ただ、この可能性を過度に恐れているといつまで経ってもお墓が作れないため、「自分と家族の安心のために、最も良いタイミングでお墓を建てるのだ」と割り切るのがおすすめです。
生前墓をつくるときの流れ
生前墓をつくるときは、以下の流れで行います。
お墓をつくる場所を選ぶ
生前墓の霊園選びで最初に意識したいのが、お墓参りをメインで行ってくれる人の利便性です。生前墓に眠るのは自分ですが、実際に利用するのは配偶者や子世代といえます。配偶者が高齢になっても行きやすく、子世代の家からも遠くない範囲を基準に、エリアを選定しましょう。
エリア内の霊園情報を、広告や看板、サイトを駆使して収集します。また、いつものお散歩ルートでも、霊園を見つけることを意識しながら歩くと意外と見つかることがあります。雰囲気や費用を見比べながらいくつか候補を絞り、実際に見学した上で決めるのがおすすめです。
石材の種類やお墓のデザインを選ぶ
霊園が決まったら石材店と打ち合わせ、石材の種類、お墓のデザイン、彫刻する文字を選びます。石材の種類やお墓に使う石の量によって費用が変わるため、複数のパターンで見積もりを出してもらいましょう。 生前墓の場合、建立者の名前の部分に朱色が入るのが一般的です。納骨時に朱色を抜く工事を行います。
工事開始
施工日程を打ち合わせし、工事の開始となります。天候によっては工期が長引く可能性があることを、心に留めておきましょう。
完成後に開眼供養を行う
お墓が完成したら、開眼供養を行います。開眼供養とは、お墓をただの「モノ」から手を合わせる対象にする儀式です。僧侶を手配する必要があるため、お寺の檀家になったのであれば菩提寺にお願いしましょう。菩提寺がなければ、霊園に相談しましょう。
生前墓の注意点
生前墓をつくるうえで最も注意したいのが、随時家族と話し合って決めることです。自分だけが使うお墓ではなく、配偶者や子世代のためのお墓でもあるためです。「本来なら子どもが建てる親の墓を、親である自分が作っているのだから、好きに作ってよい」という考えでは、お墓を継いでもらえない可能性があります。
霊園を決めるときはもちろんのこと、墓石のデザインを選ぶときには、家族の意見を必ず聞きましょう。夫婦や家族で石材店との打ち合わせに行くのが理想的ですが、カタログを写真撮影し、スマホで送ってLINE上で会議する形でも構いません。
【まとめ】生前墓は終活の不安を軽減する一つの方法
生前墓には、子世代への負担が軽減される一方で、契約すれば年間管理費が発生するようになるというデメリットがあります。長寿はめでたいことでありながら、誰も納骨されていないお墓に1万円の管理費を支払い続けたら、10年後には10万円になります。 ただ、いつどのタイミングから管理費用が発生するかは霊園にもよるため、見学時に規約をもらうなどして確認しましょう。
なかには、「管理費は納骨してから発生する」とする霊園も存在します。 費用面はもちろん気をつけたいですが、生前にお墓をつくれば、「すでに終の棲家がある」という安心を手に入れられます。それはとても価値のあることです。終活をするにあたり、精神的な安定を得たいと考えているなら、ぜひ生前墓を検討しましょう。
【監修】奥山晶子(終活カウンセラー、FP(2級))
これまでの略歴
葬儀業界を経験した後、出版社勤務を経て終活全般のライターへ。2012年より2年間「葬送の自由をすすめる会」理事。終活カウンセラー、FP(2級)。近著に『ゆる終活のための 親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある

これまでの略歴
葬儀業界を経験した後、出版社勤務を経て終活全般のライターへ。2012年より2年間「葬送の自由をすすめる会」理事。終活カウンセラー、FP(2級)。近著に『ゆる終活のための 親にかけたい55の言葉』(オークラ出版)がある
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