死亡後の相続税申告
相続税申告の基本事項
相続税の申告は、相続財産を受け取った個人ごとに行わなければなりません。例えば妻と子が相続財産を受け取った場合、妻が1通、子が1通の申告書を作成し税務署に提出します。
申告する税務署は、被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署です。
したがって、相続人の住所地を管轄する税務署ではないことに注意しましょう。
相続税の申告期限
相続税の申告期限は、相続が開始されたことを知った日(通常は亡くなった日)の翌日から10ヶ月以内です。
この期限内に相続税を申告し、各人の納付税額を原則金銭で納付します。
もし期日までに納税できなければ、納付期限の翌日から2ヶ月までは年7.3%、それ以降は年14.6%の延滞税が納付税額に上乗せされます。
相続税の申告をしなくてもよい場合
相続財産の合計額が、基礎控除額(3,000万円+600万円✕法定相続人の数)以下であれば、相続税の申告は不要です。
相続税の計算の仕組み
相続税の計算は、まず全ての相続財産から基礎控除額を差し引き、それを法定相続分に分けます。
そして法定相続分ごとに計算した相続税の合計額を、各相続人の相続分に応じて按分し、相続人1人1人の相続税を計算していく仕組みです。
ポイントは、法定相続分で計算された相続税額を、実際の相続人が分担することにあります。つまり、相続財産の総額が多くなれば、全員の相続税が高くなり、逆に相続財産の総額を減額できれば、全員の相続税が安くなるのです。
相続税の計算過程には、減税するための控除項目や逆に増税するための加算項目があります。
控除項目について
相続税の控除項目には、相続財産の額から控除できるものと、納付税額から控除できるものがあります。
主なものは、以下のとおりです。
相続財産から控除できるもの
・相続税の非課税財産
・小規模宅地等の特例による減額
・債務控除
相続税の納付税額から控除できるもの
・配偶者の税額軽減
・未成年者控除
・障害者控除
・相次相続控除
相続税の非課税財産
相続税の非課税財産でよく知られているものは、お墓や仏壇などの礼拝用具、みなし相続財産(生命保険金や退職手当金)の非課税部分などです。これ以外にも、公益の事業(宗教、慈善、学術など)が相続により取得した財産や、障害者に対する公的給付金なども一定の要件に該当すれば非課税となります。
小規模宅地等の特例による減額
小規模宅地等の特例による減額とは、居住用や事業用の建物が建てられた土地を相続させる場合、相続人との続柄、土地の利用状況等から、その土地の評価額を最大80%まで減額できる特例です。5,000万円の土地であれば、1,000万円の評価額で相続することができます。ただし、小規模宅地等の特例は要件がとても複雑です。
さらに、適用すれば結果として無税となっても、遺族は相続税の申告を行わなければなりません。活用を検討する場合は、専門家への相談をおすすめします。
債務控除
債務控除とは、被相続人が生前に負った債務がある場合、それを他のプラスの相続財産と相殺できる控除です。
債務には、借金や未払いの税金、死亡前の入院費などのほか、被相続人の御遺体の運搬費や葬式費用なども含まれます。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減とは、配偶者が分担する納付税額が、1億6,000万円以下か相続財産の合計額に対する配偶者の法定相続分以下であれば、無税とする措置です。相続税法上、配偶者はその財産形成に最も貢献した人と位置づけられています。
そのため配偶者には様々な優遇措置があり、そのうち最も大きな措置がこの配偶者の税額軽減なのです。
この措置により、配偶者は無税となることが多いのですが、相続税の申告が必要になります。
未成年者控除
未成年者控除とは、未成年者である法定相続人が負担する相続税から、20歳になるまでにかかる年数に10万円をかけた金額を控除する制度です。年齡の起算点は、相続開始時になります。
ちなみに平成29年4月現在の法令では、未成年者控除のボーダーラインは20歳ですが、今後の法改正の動向に注意が必要でしょう。
障害者控除
障害者控除とは、障害者である法定相続人が負担する相続税から、85歳になるまでにかかる年数に、障害の等級などに応じて10万円又は20万円をかけた金額を控除する制度です。年齡の起算点は、未成年控除と同じ、相続開始時になります。
相次相続控除
短期間に相続が続くと、同一の財産に対する課税が繰り返され、税負担が重くなります。相次(そうじ)相続控除とは、短期間の課税の集中を避ける制度です。
10年以内に発生した2回目の相続に対し、1回目の相続で支払った相続税額の一部を控除することができます。
加算項目
相続税には控除項目だけでなく、加算項目もあるので注意が必要です。
控除項目と同様に、加算項目にも、相続財産に加算されるものと相続税の納付税額に加算されるものがあります。
相続財産に加算されるもの
・生前贈与加算
・相続時精算課税制度適用財産
相続税の納付税額に加算されるもの
・相続税の2割加算
生前贈与加算
加算項目で最も注意しなければならないのが、生前贈与加算です。
これは、被相続人が死亡する前3年以内に贈与した財産を、相続財産に足し戻すというものになります。もともと贈与税とは相続税の補完的な税であり、せめて3年以内の贈与財産は相続財産として課税しようというのが、生前贈与加算の趣旨になります。
つまり、高齢になって生前贈与を始めても、3年以内の贈与は相続財産に足し戻されてしまうのです。しかも、贈与税の基礎控除額110万円は相続税には適用されないため、110万円以下の暦年贈与も足し戻されてしまいます。
足し戻された額によって、基礎控除額を超えてしまうこともあるので注意が必要です。既に支払っている贈与税は、控除項目として相続税の額から差し引かれます。
相続時精算課税制度適用財産
相続時精算課税制度とは、一定の要件を満たす2,500万円までの贈与について、贈与時に課税せず、相続時の課税財産とすることができる制度です。若い世代への円滑な財産の移転を目的とするものでメリットもあるのですが、結局のところ課税を先延ばしにしているだけでもあります。
したがってこの制度を適用した贈与財産は当然、相続財産に加算されます。
相続税の2割加算
相続税の2割加算とは、被相続人の配偶者や子(代襲相続人を含む)、両親以外の者が財産を相続した場合、その相続税額が20%増額される制度です。この制度の目的は、相続財産への貢献度を加味し、相続人同士の税負担を公平にするものになります。
たとえば兄弟や従兄弟などは、配偶者らに比べて、相続財産を形成したことへの貢献度が高くないことが一般的なので、2割加算の対象となるのです。また、子が生存しているうちに孫に相続させた場合も2割加算の対象となります。
これは、親を経由して相続するルートを一つ飛ばしているため、相続税の課税を1回免れていることへの調整です。
財産評価
相続財産には、預貯金、不動産、有価証券など様々なものがあります。預貯金や金券であれば、その額がそのまま相続財産の金額となりますが、それ以外のものは、相続税の定める基準でそれぞれ「評価」をしなければなりません。
自分の遺産が基礎控除額以下に収まるかどうか知るためにも、生前に財産評価の方法を知っておくことはとても重要になります。
ここでは、相続されることの多い「宅地」と「家屋」の評価方法の基本事項について説明します。
宅地の評価
宅地の評価には、路線価方式と倍率方式の2つがあります。
路線価方式とは?
市街地などにある宅地は、その土地が面する道路に「路線価」が付けられており、路線価が付けられた地域に存在する宅地は、路線価方式で評価します。路線価を発表するのは、国税庁です。
評価方法は、宅地の面積に路線価をかけ、さらに土地の形状による補正率をかけて計算します。
しかし、補正率には種類が多く、また1本の道路に面している場合と2本以上の道路に面している場合でも計算方法が違うため、宅地の評価は専門家への相談がおすすめです。
倍率方式とは?
倍率方式は、国税庁が地域ごとに定めた倍率を、市町村が決める固定資産評価額にかけて計算する方法です。
路線価がない宅地の場合は、倍率方式を使って計算します。
家屋の評価
自用の家屋は、固定資産税評価額がそのまま相続税の評価額になります。
貸家・貸宅地の場合
相続する宅地や家屋が、自用ではなく、貸家や貸宅地として他人に貸している場合は、借り主の権利部分を差し引いて計算しなければなりません。計算方法を簡単に説明すると、まず貸している割合を計算し、それを自用地としての評価額から差し引くというものです。
貸している割合については、地域ごとに定められる「借地権割合」などを使用して計算することとなります。
貸家・貸宅地の計算についても、専門家への相談がおすすめです。