認知症になっても自分らしく暮らすために活用したい「法定後見制度」について知ろう
「法定後見制度」について知ろう
終活をするうえで気になることの1つに認知症があります。今や認知症は7人に1人がなると言われており、決して珍しい病気ではありません。
認知症になってしまうと、理解力や判断力が衰えてしまうため、財産の管理や病院などの手続きが正しく行えなくなってしまうこともあるでしょう。
そこで、活用したいのが「成年後見制度」です。成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。このコラムでは、成年後見制度の中でも認知症と診断された後に利用できる「法定後見制度」について詳しく説明していきます。
「成年後見制度」ってどんな制度?
「法定後見制度」について解説する前に、「成年後見制度」について簡単に理解しておきましょう。成年後見制度とは、認知症など精神上の障害により、判断能力が低下した人に、後見人等をつけることで本人が安心安全に生活を送れるよう支援する制度です。2000年の介護保険制度開始と同時に始まりました。
成年後見制度では、何もかもを後見人等に任せるわけではありません。現在の判断能力がどこまでなのかを見極めながら、可能な限り本人の自己決定を尊重する必要があります。
そのうえで、悪徳商法や本人が不利になるような契約から身を守れるよう、後見人等が支援するというものです。
認知症の診断後に利用できる「法定後見制度」とは?
認知症などで本人の判断能力が十分でなくなった時に、後見人等と言われる人を選任し、本人の代わりに行政の手続きや財産の管理などを行うための制度です。
本人の判断能力が実際に衰えた後に利用することができます。
法定後見制度には、判断能力がない人の場合に利用する「後見」、判断能力が不十分な場合に利用する「保佐」と「補助」の3種類があります。
判断能力がない場合は「後見」
「後見」で対象となるのは、認知症などが進行したことで判断能力がなくなってしまっている状態が常に続いている人です。
後見に該当すると、成年後見人が選任されます。成年後見人は、本人に代わって日常生活に関わる行為以外の法律に関わる行為を全て行う「代理権」を持ちます。
また、本人が悪徳商法や本人にとって不利な契約をしてしまった場合に、その行為を取り消すことができるという「取消権」も持っています。
簡単なことなら判断できるなら「保佐」
「保佐」は、認知症などで判断能力が著しく低下している人が対象になります。簡単なことは自分で判断できるものの、契約の手続きなど複雑な判断が必要なものについて、支援がなければ難しい場合が該当します。
保佐と認定された場合には、保佐人が選出されます。保佐人には、「同意権」と「取消権」が与えられます。
「同意権」とは、お金を借りたり不動産を売買するなどの複雑な判断が必要な場面で、その行為が適切かを判断したうえで同意するか否かを決める権利です。もし、保佐人の同意なしで契約してしまった場合には、保佐人は「取消権」を使って取り消すことができます。
保佐ほど判断能力が低下していない場合は「補助」
認知症などで判断能力の低下が見られるものの、その程度が軽度である場合には、「補助」の対象となります。補助に該当すると、補助人が選任されます。
補助人は選任された時点では、何の権限も持っていません。同意権や取消権、代理権が必要と思われる時には、家庭裁判所に申立を行います。
そして、審判で定められた権限の範囲内で補助人が支援することになります。
法定後見人等の仕事は「身上監護」と「財産管理」の2つ
法定後見人等の仕事は、生活に関することや療養・介護などの手配を行う「身上監護」と、お金や不動産などの管理を行う「財産管理」の2つです。具体的内容について、見ていきましょう。
身上監護 |
身上監護とは、本人の意思が尊重された生活を送れるよう、見守りや配慮をします。具体的には、入院や介護サービスを受けるための手続きを本人に代わって行います。また、介護サービスの提供が適切に行われているかを確認したり、入院中の病状の確認なども含まれます。 また、本人の心身の状況を家庭裁判所に定期的に報告する義務があります。 |
財産管理 |
財産管理では、日常生活に必要な金銭の出し入れや、福祉及び医療サービスへの支払い、不動産の管理や税金などの支払い等を、本人に代わって行います。実印や銀行印、通帳や有価証券などの保管や各種手続きも含まれています。ただし、本人の居住用の不動産を売却するなどの場合には、家庭裁判所の許可が必要です。また、本人の財産を増やす目的で、株式投資などを行うことは認められていません。 財産管理は、一円単位まできちんと家庭裁判所に報告する義務があります。 |
法定後見制度の手続きの流れを見てみよう
法定後見制度を利用するためには、家庭裁判所に後見等開始の審判の申立てを行う必要があります。実際の申立ての流れを見ていきましょう。
まずは申立てに必要な書類をそろえる
法定後見人の申立てを行うためには、まず必要な書類をそろえましょう。必要書類は以下の通りです。ただし、それぞれのケースによって必要になる書類が異なることがあるので、申立てをする時には家庭裁判所に確認するようにしましょう。
申立書と申立事情説明書 | 親族関係図 | 本人の財産目録とその資料 |
本人の収支状況報告書とその資料 | 後見人等候補者事情説明書 | 同意書 |
本人と後見人等候補者の戸籍謄本 | 本人と後見人等候補者の住民票 | 診断書(成年後見用)、診断書付票 |
申立てを行うことができる人
法定後見制度の申立ては誰でも行うことができるわけではありません。申立を行うことができるのは、本人とその配偶者、4親等内の親族および検察官などです。
また、市区町村長が申立てを行うことができる場合もあります。
手続きの流れ
それでは、実際の手続きの流れを見てきましょう。手続きは以下の流れで行われます。
事実関係の確認と本人の精神鑑定
申立てを行うと、その日に家庭裁判所調査員が申立人と成年後見人等の候補者に事実関係の確認を行います。この際、本人の状況を生活や財産面、判断能力の面などから確認し、成年後見人等の候補者についての判断も行います。また、後見や保佐の場合は、本人の精神状況について医師等による精神鑑定を実施します。
本人と親族の意向確認
親族の意向について、申立内容や成年後見人等の候補者を書面で送り、確認します。その後、家庭裁判所で本人を調査し、意向を確認します。本人が入院等で裁判所に行けない場合には、裁判所の担当者が本人のところに直接行って確認を行うことになります。
審理と告知・通知
そして、家庭裁判所は、精神鑑定や親族への意向照会、本人の調査結果をすべて加味し、後見の内容について審理を行います。審理後に出た結果は審判書謄本として、申立人と成年後見人等に送られます。なお、申出からこの通知までは、標準的なコースで約3カ月程度かかります。
不服申立てと登記
通知された結果に不服がある場合には、結果を知った日から2週間以内であれば、不服申立てを行うことができます。なお、不服申し立てを行うことができるのは、本人とその配偶者、4親等内の親族などです。
後見制度開始の審判が確定したら、裁判所書記官が東京法務局に後見人等の内容を登記します。登記が完了すると、後見制度を開始することできます。
法定後見制度のメリットとデメリット
法定後見制度には、メリットとデメリットがあります。制度を利用した後に「知らなかった」と後悔しないよう、メリットとデメリットのどちらも理解しておきましょう。
メリット
法定後見制度の最大のメリットは、自分の判断能力が低下しても財産をきちんと管理してもらえることです。選任された後見人が家庭裁判所の監督の下で、与えられた権限内で財産管理を行います。また、高齢者を狙った詐欺などの事件や、悪徳商法などの不必要な契約等からも守ってもらうことができるでしょう。
さらに、契約内容が理解できなくなった時には、本人に代わって介護サービスや入院の手続きなど、関係者と連携して支援してもらえることで、安心して自分らしい生活を送ることできます。
デメリット
法定後見制度のデメリットとしてまず挙げられるのが、後見に該当した場合に選挙権が失われることです。また、後見と保佐に該当した場合には、以下に示す職業に就くことができなくなります。
- 医師
- 歯科医師
- 薬剤師
- 弁理士
- 弁護士
- 司法書士
- 行政書士
- 公認会計士
- 税理士
- 社会福祉士
- 介護福祉士
- 教員
- 建築士
- 株式会社の役員
さらに、薬局や旅行業の免許取得や登録が受けられないほか、投資顧問業・一般労働者派遣業・警備業・古物営業・風俗営業も行うことができません。
後見人等の報酬は無償が原則ですが、専門職後見人等が選任された時には、多くの場合報酬が発生します。
ただし、報酬は本人の生活に支障がない程度の額が設定されますので、報酬を支払えるかどうかと心配する必要はないでしょう。
まとめ
法定後見制度は、認知症になってしまった後でも自分らしい生活ができるよう、後見人等を付けることで支援を行う制度です。
今から制度を理解しておくことで、将来制度を利用することになった時の不安を少しでも和らげることができるかもしれません。また、今は元気だけど将来認知症になった時のために今から準備しておきたいという時には、「任意後見制度」を活用すると良いでしょう。
【監修】池原充子(終活専門相談員)
これまでの略歴
身元保証 課程修了
エンディングノート講師 課程修了
遺言作成講師 課程修了
認知症サポーター 課程修了
兵庫県尼崎市出身
京都外国語大学中国語学科卒
これまでの略歴
身元保証 課程修了
エンディングノート講師 課程修了
遺言作成講師 課程修了
認知症サポーター 課程修了
兵庫県尼崎市出身
京都外国語大学中国語学科卒
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