NPO法人「となりのかいご」代表・川内潤さんのインタビュー

こんにちは。終活サポートのインタビュー記事執筆担当、村田です。

近年の介護福祉関連本の中でもベストセラー書籍の一つ「親不孝介護」の著者としても知られる
NPO法人「となりのかいご」代表・川内潤さんのインタビューをお届けします。

「まだ両親は元気だが、将来の介護に関する漠然とした不安を持っている」そんな方にとっては、
これから介護を考える上で大きなヒントが得られるインタビューとなりましたので、ぜひ最後までご覧ください。

NPO法人「となりのかいご」川内潤さんにインタビュー!

NPO法人「となりのかいご」代表・川内潤さんのインタビュー01

NPO法人「となりのかいご」を設立したきっかけを教えてください。

訪問入浴という寝たきりの方をご入浴いただく仕事をしていたのですが、その際、多くのご家族が厳しい介護に追い込まれているのを目の当たりにしました。

中には怒鳴ったり手を出してしまう方もいらっしゃいました。そういうのを目の当たりにし、いくら介護に携わっているご家族の方をなだめても、すでに気持ちが追い込まれているため、時すでに遅しという状況でした。

自分自身が将来同じような状況に追い込まれたら、同じことをしてしまうだろうと思いました。なので、そういう方に手遅れになってから声を掛けるのではなくて、より早い段階で介護の相談を受ける業務をやりたいと思うようになったんですよ。

そんな経緯で今は色々な企業に出かけて個別相談をしたり、介護のセミナーをするようになりました。

介護分野に関わるようになった背景やきっかけは何ですか?

きっかけは2つあり、一つは実家が介護の会社をやっているというのもあり、こういう仕事があるということを知るきっかけにはなったんです。

ただ当時はそこまで介護業界で働きたいとは思っていませんでした。ですが、高校のときに器械体操をやっていた時に大きい怪我をし、一時期車椅子に乗っていたことがありました。

そうなると、もう器械体操はできないので将来の仕事として福祉や介護をやってみようという事で大学は社会福祉学科に行きました。

なるほど、人生何があるかわからないものですね。

そこから大学で福祉や介護について学んだのですが、卒業した後はお金を稼げる仕事に就きたいと思い、外資系の事業再生を手掛ける会社に縁あって入社しました。

事業再生の仕事では、会社の経営を抜本的に見直し、時には人を解雇したりしなければならない仕事でもあったのでつらい部分はありましたよ。

そういう仕事をしていくうちに、 「自分には合わない」 「やっぱり私は人と直接関わって感謝される仕事に就きたい」 と思い、再び介護の業界に戻ってきたんですね。

現在の「となりのかいご」の主な活動について詳しく教えてください。

冒頭で申し上げたように、介護に携わるご家族が高齢者虐待などの段階に入ってしまうよりも、早い段階で支援を届けるということをテーマに、企業での個別の介護相談や、介護セミナーを行っています。

また、企業の制度の仕組みを一緒に考えたりするような仕事を主に行っています。

数多くのセミナーや個別相談を受けていると思いますが、個別相談で1人1人異なる事情をお持ちの方から相談を受ける際、心がけていることがあれば教えてください。

私は主に介護する側の人たちの話を聞いているのですが、とにかくその先にいる高齢者の方のことを想像して、その人のためになることを一緒に考えるようにしています。

例えば、

  • 父親が歩くと転ぶくせに、何を言おうと何度転んでも立ち上がる
  • 母親が物忘れが激しく、認知症と診断されているのに、一人で勝手に外に出かける

などのお悩みを聞くことが多いのですが、そこで対処療法として親の行動を制限するような関わり方はしないほうが良いとアドバイスしています。

例えば、父親が転ぶ事に対し、立ち上がらないように見守るというのがありがちな対処療法なのですが、それでは下肢筋力が衰えてさらに転びやすくなってしまうんですよ。

それでは、介護する側の皆さんの負担が結局増えてしまいますよね。 このように、対処療法ではなんの解決策にもならないばかりか、また新たに問題を産んでしまいます。 このように、相談者とベクトルを合わせることを心がけています。

一生懸命介護することが必ずしも正解ではないのですね。

そうですね。 認知症のケースにしても、家族が良かれと思ってたくさん声掛けしてしまったりすると、ご本人からしたらかえってストレスになってしまうケースも多いんですよ。

そうするさらに認知症を進ませてしまう結果になります。 そのため、最も戦略的で誰でもできる方法は「見ない、知らない」です。 なるほど…でも、こういうことを理解している専門職の私たちでも自分の父親や母親に同じ考え方で関われるかというと、それは正直難しいと思います。

なので、根本的に家族で介護するというのは無理な構造になってるんですよね…

個別の介護相談はそれなりに時間もかかりそうですね。

時間はかかりますよ。 特に、介護が厳しくなって介護する側も介護にどっぷりはまってからの相談だと相当の回数のセッションを重ねないといけないです。

ひとたび片足を一生懸命な介護に突っ込んでると軌道修正が難しいんです。 ただ、まだ親が元気なうちに相談に来てもらえれば1回のセッションで終わることも多いですよ。 やはり、介護に対するマインドセットが重要ですよね。

こういう相談は聞けば聞くほど大事に思えてくるのですが、世の中にはなかなかそういう制度がないですもんね。

そうなんですよ。 公的な支援制度を見渡してみれば、介護する側の悩みをゆっくり聞くという支援というのはほとんどありません。

日本の高齢者介護支援の制度の中では介護保険が最も公的な制度として代表的ですが、公的な介護保険も高齢者の自立を支援するものであって、介護する側の悩みを聞く制度ではないんです。

しかし、「となりのかいご」の活動ではそういった悩み相談をお金をもらってゆっくりやることができるので、とてもありがたいことだと思っています。 相談者の話を聞けば聞くほど、自身がデイサービスなどに携わっていても気づかなかった介護する側の方々の悩みを知ることもできています。

親不孝介護という言葉に代表されるように、過去の常識を覆す独自性のあるメッセージを世の中に発信していますが、そうした考え方は浸透してきていると実感しますか?

まだまだ足りないと思っています。 例えば、ついこの間の日経新聞の一面に「仕事と介護の両立に力を入れている企業がたくさんある」という内容があったのですが、

  • 介護休暇・休業を1.5倍にした
  • 介護という名目であれば実家でのテレワーク時間の上限を撤廃した

といった企業を称賛するような内容で、これらを良い事として大手のメディアが発信している時点でまだまだだなと思ってしまいます。

それが高齢者のためになるんだったらいいんですけど、ならないですからね。でも、多少なりとも私が出した「親不孝介護」などの書籍を手に取ってくださる方がいたり、色んなメディアが私のコメントを取り上げてくれたり、少しづつ広がりは見せているのは実感できます。

とはいえ、まだまだ社会全体の意識を変えるところまでは来ていないと思います。

コンサルティングを受けた企業からはどのような声を頂いてますか?

特に「何が本質的な仕事と介護の両立なのか、自信が持てて助かっている」という声があります。 実際、多くの企業で従業者からはどんどん高齢者介護に関する要望はきます。 例を挙げると、

  • もっと介護のために休ませてほしい
  • テレワークを認めてほしい
  • 新幹線通勤をさせてほしい
  • もっとお金を出してほしい
  • 会社で老人ホームを作ってほしい

などですね。 ですが、何が本質的な「仕事と介護の両立」なのかという議論がないままでこれらの施策を進めてしまうのは危険です。

経営視点でも、せっかく従業員みんなが平等になるように作ってきた制度が崩れてしまうとかえって離職を進ませる原因になりますからね…。

なので、本質的な仕事と介護の両立を会社として定義し、従業者の方への個別相談等を通して浸透させることで会社全体としてのマインドセットができたという点に感謝してもらえることが多いですよ。

「となりのかいご」として中長期的な目標やビジョンがあれば教えてください。

現状維持です。事業家として組織を大きくしていきたいという気持ちはあまりないです。 まだまだ私たちが提供している支援の内容に納得できていないですし、また、今のやり方が一番自分の力が発揮できると思っています。

そもそも家族の虐待の防止事業をお金をもらいながらできるという幸福は他にないと思います。

最後に、これから親の介護を迎えるにあたって不安を抱える方に対してメッセージがあればお願いします。

NPO法人「となりのかいご」代表・川内潤さんのインタビュー06

家族の介護は、結婚や出産といったその他のライフイベントと同じだと思うんです。 なおかつ、この先日本では少子高齢の構造を脱することは難しいと思うんですよね。

その構造を踏まえると、これから日本人は多くの介護と向き合わなければならないのは明らかなので、みなさんが親を介護しなければならない状態になるのは当たり前のことです。

ただ、もしそうなっても今まで通りの親子関係を継続し、適切な距離を取って関わっていくことで、いかなる介護に直面しても良好な親子関係でありつづけることを目標にしていただきたいです。

一方で、自分がいかに身を粉にして、どれだけ自己犠牲を払ったかなどを目標にしてしまうのは良くないことです。そうなるとこれまで形成してきた親子関係が崩れてしまうでしょう。

そもそも、いくら家族だからといって両親の人生や健康に対して責任を取れるものではないと思うんです。「どうしても自分が責任を取らなきゃ」という考えに固執しないことがコツだと思いますよ。 親の介護と向き合う際に、やろうとしていることが

  1. 親のためにしてあげたいことなのか
  2. 自分の不安を解消するためにしたいことなのか

を切り分けて考えられる余裕を持つことが大事ではないでしょうか。 その余裕を持てなくなることが最大の親不孝になってしまうのではないかと私は考えています。

インタビューを終えて

NPO法人「となりのかいご」代表・川内潤さんのインタビュー07

いかがでしたでしょうか?

これから介護を考える方の中には「介護は仕事をある程度犠牲にしてでも一生懸命やるべきだ」という考えを持たれていた方もいらっしゃったのではないでしょうか。

※正直私にも少なからずそのような考えはありました。

そうではなく、あえて適度な距離を取る。
一見親不孝とも思える介護のスタンスが結果的に介護する側の人たちはもちろん、介護される側の親もラクにするというのです。

この考え方をより詳しく知り、介護に向けたマインドセット・整理をしてみたい方は川内さんの書籍を手にとってお読みになってみてください。

NPO法人「となりのかいご」:https://www.tonarino-kaigo.org/

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