「うちは家族みんな仲いいから遺言書なんて書かなくていいんじゃないかな」
「そもそも相続財産なんてほとんどないよ」
「相続でトラブルになるとしたらどんなケースがあるんだろう」
テレビドラマをよく見る方なら、お金持ちの家族が相続でトラブルになり親族同士が紛糾しあう、
というシーンを見たことがあるかもしれません。
お金持ちも大変だなあ・・・ウチは元々家族仲いいし、そもそも豪邸に住んでるわけじゃないし・・・と、
相続トラブルをどこか「他人事」として感じていませんか?
実際、相続は家族仲や資産の額に関係はありません。
今回は横浜市を中心に遺言書作成、相続手続をサポートしている長岡行政書士事務所として、
トラブルのない家族でもなぜ遺言が必要なのかを解説いたします。
トラブルのない家族でも遺言が必要なのか?
家族が絶対に揉めない保証はない!
さて、故人が書いた遺言がないままに相続が起こってしまうとどうなるのでしょうか。遺言は故人の最後の意志として尊重され、基本的にその内容の通りに遺産は分割されます。
この遺言がないと、遺産分割協議という話し合いを相続を受ける権利がある人(=相続人)の間で行う必要があります。
どのように遺産を分けるかは遺産分割協議で自由に決めることができ、法に則った遺産分割(=法定相続)でも、それ以外の分割割合でも、相続人全員が同意すれば可能です。
しかし、ここで気をつけていただきたいのが、遺産分割協議は相続人の「全員が参加」で、遺産の分割案に「全員が同意」する必要があるということです。家族が亡くなって悲しみに暮れる中、遺族は集まってお金の話をしないといけないのです。
お金絡みの問題が出てきたとき同じく円満でいられるか?
お金は生活や将来設計に直結します。これまでどんなに仲が良くても、家族はそれぞれ自分の世界や都合があります。
遺言があれば、「亡くなったあの人が決めたことだから」と納得もできますが、同じ立場の者同士が集まってお金の分け方を決めるのは困難が伴います。また、遺産分割は血のつながった家族だけの問題にとどまりません。
たとえば父が亡くなり、配偶者である妻、長男、次男の3人で父の遺産を分けるとします。
「長男の家は今家計が大変だから・・・」と妻と次男で納得していますが、もしかしたら、次男の妻は納得できないかもしれません。
二男の妻自体は相続人ではありませんが、第三者として二男に横やりを入れるかもしれませんし、言われた長男としては気持ちよくないでしょう。 こういった心理的なしこりを残さずに遺産を分割するのは意外と難しいのです。
相続財産が多い少ないは関係ない
でも、ウチは大して財産がないから揉めようがない・・・と考える方がいるかもしれません。 実は、財産の多い少ないは相続のトラブルに関係ありません。
むしろ「普通の家」の方が遺産分割でトラブルに発展する可能性があります。 家庭裁判所の司法統計資料によると、調停や審判などの争いになった相続案件のうち30%超が財産が1,000万円以下、40%超が1,000万円超から5,000万円以下になります。
参考記事:遺産額が多いと相続トラブルが起きるのか?統計から行政書士が原因を解説|横浜市の長岡行政書士事務所
つまり、財産が5,000万円以下の家庭が相続トラブルの7割以上を占めているのです。 そして「財産が5,000万円以下」という家庭は、野村総合研究所による2021年の統計では日本の世帯の9割が該当します。
これら事実を言い換えると、日本の9割の「普通の財産を持つ家庭」が「相続トラブルの7割以上を」起こしていると言え、相続トラブルが決して一部のお金持ちだけの問題ではないことが浮き彫りになってきます。
では、なぜ普通の家庭の方が相続トラブルに遭いやすいのでしょうか?
仮に父が亡くなって残された家族が母と子二人、財産が両親の住んでいる家のみ、という場合を考えてみましょう。分ける財産は家しかありませんが、家は当然ながら物理的に分割できません。
母が年老いているケースも多いでしょうから、母に住み慣れた家に住み続けてもらうことで子二人は納得できるかもしれません。しかし、子のうち一人が借金に苦しんでいたり、他の家族と関係が悪かったらどうなるでしょうか。
家を売って自分の相続分の金銭を払うよう要求してくるかもしれません。 また、母であれば納得できても、しばらくして母も亡くなり、子二人で財産を分け合うことになると、長男は思い出の詰まった家を売りたくない、次男は家を売って現金化して欲しい、と意見がぶつかる可能性が出てきます。
逆に資産が多い家庭の場合は分ける資産が多いので遺産分割の選択肢が増え、トラブルを回避することができます。
たとえば「長男は家を相続して思い出を大切に」「次男は父母が遺してくれた現金を受け取って納得する」というように、双方の落としどころを探ることができます。
さらには、一般的に富裕層の方が日ごろから税金対策や資産防衛の為に税や法律の専門家と触れ合う機会が多く、自分が亡くなる前に遺言を書く等の準備をしているケースが多いこともトラブルが少ない理由として挙げられるでしょう。
相続でトラブルになりそうなケースを6つ紹介!
それでは、将来相続トラブルに発展するリスクのあるケースとその理由を説明していきます。
- 夫婦間に子供がいない
- 離婚した相手との間に子どもがいる
- 判断能力のない相続人がいる
- 法定相続人以外に財産を渡したい人がいる
- 内縁の妻(夫)がいる
- 介護を長くしていた等、自分は特別な貢献をしたと思ってる人がいる
夫婦間に子供がいない
遺言がないまま亡くなった場合でも、子供がいれば相続の権利者は「配偶者」と「子供」であるため、基本的に血のつながった者同士の相続になります。 しかし子供がいないと相続人は残された妻(夫)と義理の父や母、もしくは義理の兄弟達が相続人になります。
配偶者としては、普段は義実家と仲良くしていても夫(妻)が亡くなって関係性が変わったのに、更に義実家の人たちと相続でお金の話をするのは負担だと感じるかもしれません、
参考記事:子どもがいない夫婦の遺言書の書き方|横浜市の長岡行政書士事務所
離婚した相手との間に子どもがいる
離婚した相手との間に子供がいる場合、親権がなくても、また長い間音信不通であったとしてもその子供は相続人の一人になります。 再婚している場合、現在の配偶者とその子は離婚した相手の子供と遺産分割協議を行わなければいけません。
相続人同士の関係によっては、遺産分割協議で容易には合意に至らない可能性があります。 また、現在の配偶者や子にとって離婚した相手と会わなければいけないのは心理的な負担だと言えます。
参考記事:前妻の子に相続させない方法とは?|横浜市の長岡行政書士事務所
判断能力のない相続人がいる
遺産分割協議において、相続人のうち一人でも認知症や障がいにより判断能力のない方がいると遺産分割協議が成立しません。 遺産分割協議は全員の同意が必要で、判断能力のない方は法律的に有効な「同意」ができないからです。
このような場合、代わりに判断や同意をしてもらう成年後見人といったサポーターを家庭裁判所に選んでもらう必要がありますが、申立の準備からサポーターが決まるまで3カ月から半年もかかることがあります。
その間は遺産分割は手続はストップし遺産には手を付けることができないので、例えば葬儀費用といった緊急の用立てのため故人の預金を解約したりすることができません。
また、成年後見人が選任され、無事に遺産分割が完了したとしても、現在の法制度では成年後見人は選任されれば生涯その方の後見人となり、遺産分割が終わったからと言って成年後見人がいなくなることではないことに注意が必要です。
さらに、相続には「相続税の申告・納付を、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に終わらせる」という期限があります。
10か月というと長い期間のようにも感じられますが、葬儀やその他の手続きを行い、また日常生活や仕事をしながら遺産分割協議を行い全員参加で全員合意に至るのは大変な苦労を伴います。
そのような状況で、家庭裁判所に成年後見人を頼んで・・・という手続きが加わるという事は、相続が間に合わなくなり延滞税や税金の軽減制度が利用できなくなるという重圧の下で相続を進めないといけなくなるという事につながります。
参考記事:認知症の家族がいた場合の相続はどうなるの?|横浜市の長岡行政書士事務所
法定相続人以外に財産を渡したい人がいる
遺言を遺さないと家族以外の第三者に遺産を贈ることはできません。 生前に私が死んだら遺産の一部を贈るよ・・・と口約束等をしてしまうと、本人の死後そのような第三者が現れると相続人が困惑してしまいます。
また、相続人にお願いしておくだけでも法的な効果はないので、本当に死後に実現できるかは不確かです。 特にかつてお世話になった人や法的にまだ認められてない(=認知していない)子に遺産を残したいような場合は誰かに頼むだけでは不十分で、後のトラブルに発展する可能性があります。
参考記事:遺産を団体に遺贈寄付する方法|横浜市の長岡行政書士事務所
内縁の妻(夫)がいる
どんなに長年一緒に生活していても、婚姻届を提出していないと内縁の妻(夫)は遺産を相続することができません。
事実上の婚姻関係だけでは内縁の妻(夫)に相続の権利が発生しないのです。 内縁の妻(夫)に遺産を渡したい場合は遺言を書く必要があります。
参考記事:事実婚夫婦の遺産相続対策|横浜市の長岡行政書士事務所
介護者など自分は特別な貢献をしたと思ってる人がいる
遺産分割の内容は相続人が全員同意すれば自由に決められます。 しかし次のような主張をする人がいると遺産分割協議で合意ができない可能性が増します。
- 「私は父の介護を長くしたから多めの遺産が欲しい」
- 「自分の仕事を辞めてまで家業を継いだのだから遺産が多くもらえて然るべきだ」
もちろん他の相続人がその通りだと認めて同意すれば問題ないですが、往々にして他の相続人の取り分が増えると自分の取り分が減ることもあるため、すんなりと行かないことも多々あります。
法律には「寄与分」といって財産の維持や増加に貢献した人に通常より多めに遺産を取得させるという制度がありますが、一般に思われているより多大な貢献をする必要があったりと法律の専門家のアドバイスなしではなかなか納得が得られないようなケースも出てくるかもしれません。
もう一つ気をつけるべきは、相続人は親族であれば誰でもなれるというわけではなく、またこの寄与分も対象は法律上の相続人に限られているということです。
例えば亡くなった方の子の配偶者(例:長男の嫁)は相続人ではないので、義父の介護を長年行っても寄与分の主張はできません。それではあまりにも不公平だという事で2017年に「特別寄与料」という制度が始まりました。
しかし、こちらも適用要件が厳格に決められており、思ったように遺産がもらえない方は不満を募らせてしまうことになります。 このような場合でも、自分の介護をしてくれたあの人へ、と遺言を書く事で円滑に遺産を分割することが可能となります。
トラブルがないからこそ遺言書を書こう!
遺言書に関連する記事
遺言書の作成費用と保管までに必要な費用
[作成日]2021/03/01
遺言書の作成手順と無効にならないためのポイント
[作成日]2021/02/15
遺言が無効になる5つのケースとその解決策
[作成日]2020/01/01
子供のいない夫婦の相続で遺言書を作成すべきケースとは?
[作成日]2019/12/20
遺留分とは何?遺留分を侵害する遺言書の効力について
[作成日]2019/12/20
認知症の人が作成した遺言書に効力は認められるか
[作成日]2019/07/11
[更新日]2020/11/18